小倉のすいな

中医学と東洋医学

中国には約四千年前に始まり、多くの経験と研究の積み重ねによって完成された伝統医学“中医学”
があります。中医学は中国社会において人々の生活と密着しており、中国の文化のひとつといえます。そうした中医学は、アジアの近隣諸国にも多大な影響を与えてきました。

日本には、漢字や仏教と同時期(約1400年前)に入ってきたといわれています。
日本に入ってきた中医学は、その後日本国内で独自に発達し、明治になるまで日本の医学として主流をしめていました。それらは、1000年以上も日本の土壌、文化のもとで発展発達してきたため、現在では中医学とは似て非なるものとなっており、日本漢方、和漢などと呼ばれています。
もちろんこの事は中医学の一部である推拿(日本に入ってきた当時は中国でもまだ按摩と呼ばれていた)や鍼灸についても同じことがいえます。中国では、推拿は医療行為とされ病院内で行われているのに対し、日本の按摩やマッサージは医療行為ではなく、リラクゼーション効果、つまり気持ちよさを求めて行なわれているということがいえます。

また、『西洋医学』に対し、東洋で発達した医学の総称として、『東洋医学』という言葉が使われています。一般的によく使われているこの東洋医学、その範囲は実に広く中医学から日本漢方、韓医学(韓国)、アーユール・ヴェーダ(インド)ユナニ医学(イスラム)などを含みます。ですから、東洋医学といっても、中医学を指すのか日本漢方を指すのか、推拿を指すのか按摩を指すのかでずいぶん違ってきます。こうしてみると、今の日本では、この東洋医学という言葉がよく使われる割に、ものすごくあいまいな意味で使われている事がわかります。

1975年WHOが上海中医薬大学に「国際針灸訓練センター」および「世界伝統医学協力センター」の設立を委託したのを皮切りに、中国政府は国家戦略として世界規模の中医学の普及に力を入れ始め、現在では世界80余りの国および地域に非常に多くの中医学に携わる専門的人材を育成しました。近年は欧米では中医学がTraditional Chinese medicine (TCM、伝統中国医学)の名で普及し、大学教育も充実し、補完・代替医療として治療・研究が広く行われています。漢方薬についての法律はないが針灸については法律のあるといった国は多くあり、針灸は医療行為として承認されています。アメリカでは50州、カナダでは4州にはいずれも針灸についての法律があり医療保険も適用されています。

日本では最近ようやく東洋医学ではなく中医学としてとらえられるようになってきましたが、世界的に見るとまだまだ中医学の認知度は低いのが現状です。中国に近すぎたために、中医学に似て非なりの日本漢方という医学が昔から存在していた事が結果的に中医学の浸透を遅らせてしまったというのはまさに皮肉といえるかもしれません。

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